【プロフィール】
しおのや・あきら 1979年生まれ。
公益社団法人 日本トライアスロン連合(JTU)所属。AscentCycle代表。
長年プロショップやトレックストアなどに勤務しながら、パラトライアスロンのメカニックとして活躍。
リオデジャネイロ2016パラリンピックでは日本ナショナルチームのメカニックとして帯同。2016年10月にプロサイクルショップ「AscentCycle(アセントサイクル)」をオープン。
水泳・自転車ロードレース・長距離走の3種目を行う耐久競技「トライアスロン」。先日、お台場海浜公園で行われた東京2020パラリンピックのテストイベントの後、自転車メカニックの塩野谷聡さんにインタビューしました。
高校時代に在籍していた自転車競技部の監督が、日本トライアスロン連合の強化委員でした。ジュニア育成などを行っていたこともあり、僕も合宿の手伝いやジュニアのナショナルチームのメカニックを数年やっていました。その後、しばらく競技のサポートからは離れていましたが、リオデジャネイロ2016パラリンピックの前年に、パラリンピック対策チームのリーダーである富川理充さん(同じく「東京パラスポーツスタッフ」認定者)から、新たなチーム編成を行うので来ないかと声をかけられたのが、パラトライアスロンとの繋がりです。
トライアスロンの自転車機材の組み立て、修理全般を行っています。基本的には、すでにセッティングしてあるものを調整する役割です。レース当日が雨や雨上がりの場合は、オイルを耐久性の高いものに替えたりし、逆に晴天の場合は、低フリクションで回転が軽く汚れにくいものに整備します。
ナショナルチームに関われたことです。障害の有無に関わらず選手へのサポートなので、ナショナルチームで世界と戦う選手を支えることに責任と誇りを感じています。
自分でサイクルショップを経営しているので、普段の仕事として自転車を組み立てながら、新しい技術も吸収しています。自転車の組み立てを行う時は、ロードバイク、クロスバイク、レースする人、しない人に関わらず、それぞれの個性を考えた上で、整備・保守を行う頻度が少ないような組み立てが出来たら理想です。
もちろん、自分ならこのようなセッティングをしたいという思いもありますが、僕はコーチではないので、選手に押し付けることはしません。でも、直接選手から相談を受けた時は、その機材に乗るのであれば、こうした方がいいのではないかと提案を行うこともあります。
海外遠征では機材を空輸するので、ロストバゲージや破損など輸送時のトラブルが多いです。例えば、ある時は空港に着いたら機材が届いておらず、南アフリカで見つかったのですが、機材を梱包していた大きな段ボールが水に濡れてボロボロになっていました。その時は帰国するために梱包する大きな段ボールを街中探し回りました。あまり治安のよくない街だったので、何かあったらいけないとポケットに工具を入れて(笑)。結局、ゴミ捨て場にあった段ボールで梱包して無事に日本に送ることができました。
富川理充チームリーダーが「選手に覚悟を持たせるのであれば、スタッフも相当の覚悟を持って挑んでください」と言われているとおり、パラリンピックだから必要とされるではなく、全てのチームで必要とされるスタッフであること、また人間的に選手の見本となるような存在でありたいです。
オリンピックの場合は長年培われた体制もあるので、競技者もスタッフも求められているものが厳しく、実際にそれに応えていると思います。一方、パラリンピックの方は、まだ体制が充分ではなく、人手も足りていない競技がほとんどです。今回の大会でもメカニック担当の僕が給水アシストや荷物の運搬作業などもやっているわけです。スタッフが少ない分、自分が出来ることは何でもやらないといけません。競技が周知されることで支える人が増え、専門的なスタッフとしての活動が増えたらいいなと思います。
基本的には業務内容は被っていますので、営業時間外に選手の機材をピックアップや配送したりして、店で調整することもありますし、時には選手のところへ行くこともあります。本業と掛け持ちなので確実に休みは減っています。でも、事業者としては考え方が甘いかもしれませんが、僕の中ではこの活動を続けるためにお店をやっている気持ちでいて、店を潰さない程度にと思っています(笑)。
これまでは自転車に乗ることがリフレッシュでしたが、最近は全然乗れていません。今は車を運転する時間が、いい気分転換になっています。音楽を聴きながら、選手の機材をこうした方が良いんじゃないかとか、頭の中で整理をするのに車の運転は向いていますね。休みが取れるようになったら、いつか妻と短期の旅行に行ってみたいです。
高校の自転車競技部の監督が僕らに言った「見るのではなく観ろ」という言葉です。ただボーっと眺めていても何も見えてきません。きちんと観察して、常に考えているから、アイデアや閃きが浮かんでくるという意味です。いまは機材のことはもちろん、担当以外の分野でも観察しながら、色々と改善案を考えています。
僕は自転車からパラトライアスロンと出会いましたが、片手や片足で自転車に乗っている選手を見て驚きました。それに僕は泳げないので、スイムをやることにも驚きですし、最後に走るなんて足が痛くなりそう(笑)。このような過酷な競技をやっている選手たちを、皆さんも純粋に凄いなと思っていただければ良いと思います。両手がない選手は、足で漕ぎながら変則とブレーキも行える自転車に乗りますし、障害の度合いによって機材の異なる仕組みを見るのも観戦の楽しみになるかもしれません。
まずは、出場に向けて頑張って欲しいですね。出場することが目的なのか、メダルの獲得が目的なのかで違ってきますが、やるからには上を目指すのが競技者だと思います。一人でも多くの日本人選手が表彰台に、できれば頂点に登って欲しいです。
東京2020パラリンピック大会が終わった後に、パラスポーツ全般への関心が下がることなく、右肩上がりになることを願っています。そしてパラトライアスロンで、世界でも活躍できる若い選手が出てくるといいです。
公益社団法人日本トライアスロン連合 パラトライアスロンオフィシャルサイト
http://www.jtu.or.jp/para/
取材は8月17日に行われた「ITUパラトライアスロンワールドカップ東京大会」の会場・お台場海浜公園。翌2020年のテストイベントということもあり、会場は熱気に満ち溢れていました。その中で、選手の行動を予測して動く塩野谷さんは、まさに、ご自身の座右の銘である「見るのではなく観ろ」を確実に実践されていて、その姿がとても印象的でした。