【プロフィール】
なかざわ・よしひろ 1970年生まれ。
一般社団法人日本車いすテニス協会ナショナル監督。
有限会社N-PLANNING代表取締役社長。
プレイヤーを経てコーチとして活動するなかで車いすテニスと出会う。現在は日本代表チームの監督として、選手強化や競技普及に向けて精力的に全国を飛び回る。
国際的に知名度が高い人気競技の一つに「車いすテニス」がある。2バウンドまでの返球が認められている以外は健常者のテニスと同じルールで行われる。今回、日本代表の監督としてチームを牽引している中澤吉裕さんにインタビューしました。
2000年頃、「ワールドチームカップ」(車いすテニス世界国別選手権)に車いすテニスのクアードクラス(下肢だけでなく三肢以上に障害のあるクラス)で活躍された玉澤紀洋選手がトレーナーを探しており、その話が私のところに来たのがきっかけです。
日本車いすテニス協会全体の動きを把握し、協会として強化選手のサポート、合宿の計画、国際試合の準備など進める一方、委託あるいは助成を受けている日本スポーツ振興センター、日本パラリンピック委員会への報告書作成も行っています。
チームとしては、数年前からパーソナルコーチとナショナルコーチの関係を良くしようと動いています。テニスは個人競技なので、普段、選手はパーソナルコーチとチームを組んで行動しています。そのパーソナルコーチとナショナルコーチとの連携を円滑にして、相互理解を深めるのが狙いです。
選手の障害の重さによって教え方を変えています。体を使える範囲が狭くなってくると出来ることが限られてきますが、出来ることを中心に組み立てていくことで、それは武器にも成り得ます。打球のスピード、動く速さなど、障害の重さに比例して遅くなりますが、それが選手にとってのトップスピードなので、それをいかに活かすかが重要です。トレーニングで苦手な部分を補うことも出来ますが、どうしても出来ないところも出てきます。
これまでの経験から、指導者が先を見て気づき、最初から練習に取り込んでいかなければいけないと確信が持てました。したがって、先手を取って弱点を突かれないような戦術を作っていくのも大事なことです。苦手な部分も、前向きに捉えれば上手くいくのではないかと思います。
照れくさいですが、一番は「愛」ですね。やはり選手を信じていますから、絶対に裏切りませんし、その選手が良くなることなら何でもします。この思いが、しっかりと相手の選手にも伝わらないと、一つの言葉をかけても、捉え方がまったく変わってくると思います。最初に自分の気持ちを伝えて、表現して、相手の理解が深まるよう常に心がけています。
選手によって違いますが、言葉は慎重に選んでいます。言いたいことが10個あるとしたら、何個まで言うとその人のスイッチが入るのか考えます。12個言わないといけない人もいれば、あえて何も言わずに配球など練習の中で伝える人もいます。
時には、新しい考え方とかヒントを投げかけることで頭を切り替えてもらったり、忘れたことを思い出してもらうために、少し否定的な言葉を選ぶことがあります。そうしたことが出来るのも、そもそもお互いの関係性が成り立っていないと伝わりません。人としての付き合いがあり、知識があり、技術があり、そこで勉強して伝えていくことが大事なのかなと思います。
20年前のことですが、世界大会でずっと勝てなかった選手が、やっと1勝したので「よく勝った」と褒めたら、「次も試合があるからまだ終わってない」と選手に言われた瞬間、僕はまだまだだなと思いました。その時のことは鮮明に覚えています。
また、選手がすごくいいボールを打った時に「ナイスショット」と言ったら、選手に「普通だよ」と言われたこともありました。選手にとっては普通の打球でも、僕がナイスショットと言ったことで、お互いが見ているポイントの違いを感じ、そこから選手と視点を合わせていかないといけないことに気づきました。僕は日々、選手から良い影響を受けています。
もう大変ですよ(笑)。日々悩んで、苦労して、戦っているだけなので、そう簡単には両立できないです。「妥協したくない自分」と「妥協しなくてはいけない自分」のバランスを、どこまで許してやるか、自分なりの評価基準を持つことを常に意識しています。これ以上やってしまうと、きっと上手くいかないだろうと思った時には、自分が最後に後悔しないギリギリのところまでは我慢しますが、それ以上になったらブレーキをかけなきゃいけないのが難しいです。
認定していただいてありがたいですし、認定されている監督やコーチはさすがに違うなと周囲から思われる存在になろうと思いました。やはり認定者はしっかりしていなければいけないと思うので、次のステップとしては、認定者がお互いに切磋琢磨して、認定コーチは一味違うぞと評価されるといいなと期待しています。
車いすテニスの魅力は、スピード、迫力、パワー。皆さんには、是非、目の前で応援してほしいです。東京2020パラリンピック大会本番だけではなく、できれば、その前の段階から会場で応援してください。車いすテニスは個人競技なので皆さんの応援があれば心強いものです。
また、車いすテニスは健常者と一緒に垣根なく出来て、ルールがわかりやすいので楽しんで観戦できると思います。
目標は全クラスでメダル獲得です。東京で開催されることで、選手たちも絶対に勝ちたいと思っているはずです。選手には、今やっていることに集中してやって欲しいですし、万が一あまり良い結果ではなかったとしても、きっと次に繋がると信じて、私も含めて一緒に頑張っていきたいです。
車いすテニスのプロ化を果たすことです。見て楽しいスポーツ、魅せられる選手、それを取り巻くスタッフと協会。多くの人たちに見てもらって、認知してもらわないと生き残ることは出来ません。今、選手たちはそれだけのパフォーマンスを発揮できていると思います。またトップ選手が数多く出て、みんなに見られると、私もやってみたいという人が増える可能性も高まるので、最高の普及になるかもしれません。車いすテニスがプロ化になるサポートができればと思います。
一般社団法人日本車いすテニス協会
大会(※)帯同中のお忙しい中、快く取材に応じてくださった中澤吉裕監督。この日、齋田悟司選手の練習相手として自らラケットを握る場面も見られました。選手との相互理解や関係性を保つために会話の大切さを語られていたとおり、インタビューでも慎重に言葉を選びながら答えていただきました。常に相手のことを考え、思いやる気持ちに溢れた素敵な指導者であることが伝わってきました。(※)「KANAGAWA OPEN 2019」(8月15日から18日まで開催)