東京アスリート認定選手・インタビュー(44)
篠田匡世選手(練馬区) 車いすバスケットボール(2019/3/14)

篠田匡世選手の写真

【プロフィール】
しのだ・まさつぐ 1988年9月20日生まれ。株式会社メルカリ所属
障害:両脚切断
2015年 内閣総理大臣杯日本車椅子バスケットボール選手権 準優勝
2016年 全日本ブロック選抜車いすバスケットボール選手権大会 優勝
2017年 内閣総理大臣杯日本車椅子バスケットボール選手権 3位
2017年 北九州チャンピオンズカップ国際車椅子バスケットボール大会 優勝

車いす同士が激しくぶつかり合い、めまぐるしいスピードで試合が展開されていく「車いすバスケットボール」。スピード&クイックネスに定評があり、2017年にはドイツリーグに参戦し、現在は古巣の埼玉ライオンズの主力選手として活躍している篠田匡世選手にインタビューしました。

「技術を上げていくことはもちろん、
頭のスタミナをつけたい。」

〜競技をはじめたきっかけを教えてください。〜

篠田匡世選手の写真2

受障前は、車いすバスケットボールの存在も知りませんでしたが、18歳の時、事故で入院した先のリハビリの先生からこの競技をやっている人を紹介してもらい、体育館に見学に行ったのがきっかけです。

それまでは10年間、野球を続けていて、気持ちとしては野球のことが忘れられなかったのですが、車いすバスケットボールを目の前で見て、これまで自分が思っていた「車いす」=(イコール)「障害者」というイメージが根底から覆されました。スピード感、迫力など、見た瞬間にこれはやりたいなと。また、パラリンピック正式種目ということも聞いて、野球では叶えられなかった夢も、この競技であれば、実現するかもしれないと思ったのが最初です。野球以外のスポーツの楽しさを知らなかったので、新たに始めてみて、いろんなスポーツをやった方がいいということに気づきました。

〜競技を10数年続けられた中で、自分の転換点となった試合はありましたか。〜

僕の中では、4、5年前に決勝に進めた日本選手権大会です。当時、私が所属しているチームは若手中心で勢いがあると言われていて、もしかしたら連覇してきた強豪相手にも勝って、初優勝できるんじゃないかという評判やチーム内の雰囲気がありました。でも、その結果はトリプルスコアで負け…。自分たちが思い描いていた以上に実力の差がありました。

いままで周囲や現実を見ず、自分の想像の中だけで練習をしていて、自分はここまで成長したから大丈夫と思っていましたが、周りはそれ以上に成長していました。その頃、ちょうどパラリンピックの東京開催も決まって、このままでは代表どころか、国内でも自分の実力が発揮できないまま終わってしまうのではないかという焦りの気持ちが一気に芽生えてきた瞬間でした。これまで自分のパフォーマンスを上げることばかり考えていましたが、チームスポーツなので、周りとの連携だとかを考えないと、一人では勝てないことがわかったのが、この大会でした。

〜篠田選手といえばスピードに定評がありますが、そのほかの強みは何ですか。〜

スピード・クイックネスということは言い続けていますが、もともと点をガツガツ取るタイプではないので、最近は、周りの選手にチャンスを与えて、より確実に点を取らせるようなゲームメイクに注力しているところです。それがスコアでも出てきて、ゲームでも勝てていることが、成長の表れかなと思います。

〜さらに伸ばしていきたいことは。〜

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パラリンピックを見据えた場合、相手は日本人よりもはるかに体が大きい海外の選手です。これまでの車いすバスケットボールはどれだけゴールの近くで確実なシュートを打てるかということでした。しかし、日本人にはそれはできないので、より外側からのシュート、いわゆるミドルシュートの確率を上げながら、ディフェンスを引き出し、中のスペースを大きく空けて、長身の選手に、より容易にシュートを打たせるようにします。そのためにも自分のミドルショットやドリブルの能力を、いま以上に上げていかないと、なかなか難しいと思います。

〜2017年にドイツの車いすバスケットボールリーグ「ブンデスリーガ」に行かれた理由は。〜

埼玉ライオンズに所属して10年ちょっとになりますが、チーム内での「馴れ」というのが出てきたため、誰も自分のことを知らない環境でいちからアピールせざるを得ない場を求めた、ということです。パラリンピックはそれこそ未知の世界なので、その新たな環境の中で、自分がどれだけ適応できるのか、技術ではなくメンタル部分を強化したいと思って飛び込んでみました。

〜実際にドイツリーグに参加されてみてどうでしたか。〜

ブンデスリーガには各国の代表レベルの選手が集まり、競技力の高さを感じました。自分が通用する部分もあれば、通用しない部分も見えてきた時で、日本にいるより、世界に向けて、自分が何をしなければいけないのか、何が強みになるのかが、明確になった1年でした。周りの環境によって気持ちがブレなくなってきましたね。

〜ドイツ滞在時の暮らしぶりはどうでしたか。〜

生活自体は楽しかったですよ。週に5日練習し、週末土曜日に試合があって、ほぼバスケ漬けでした。アパートで一人暮らしをしていて、もともと料理をする方なので、自炊していました。日本から持って行ったスーツケースの半分、20kgちかくは調味料や日本食でしたね。ドイツでは、ほとんどの肉がブロックで売られているので、角煮とか何度も作ってました(笑)。この合間に料理を作るのがリフレッシュになっていました。

〜東京2020パラリンピックへ向けての課題や目標はありますか。〜

課題は、先述のミドルショットとドリブルのハンドリングを高めていくこと、そして日本代表選手が行っていることを、しっかり理解することです。40分の試合時間中、疲労してくるとどうしても頭の回転が追いついてこないので、頭のスタミナをつけたいですね。ヘッドコーチのすること、仲間のしたいこと、相手のしたいことをいかに読み取れるかも必要となってくるかと。技術を上げていくことはもちろん、理解力を高めることを課題に挙げたいと思います。

〜「東京アスリート認定選手」に認定されて、何か意識が変わりましたか。〜

篠田匡世選手の写真4

特にないんですよね(笑)。しかしながら、僕らが活動する中で何かに認められるというのはモチベーションに繋がります。特に周りの反響等は気にしていませんが、東京2020の会場となる「東京都」から認定を受けるというのは嬉しいことですし、認定されたからにはパラリンピックに出場してメダルを獲ってくるまでが自分の仕事だと思います。

〜休日や空いてる時間で行っているリフレッシュ方法は。〜

どこかに行く時間もそんなにないので、家で映画を観たり、車が好きなのでドライブに行ったりします。たまに他のスポーツを観たり、やってみたりするのもリフレッシュになります。ボート、車いすソフトボール等、他のスポーツをやってみると、やっぱりバスケが楽しいなと思えるので、バスケがキツイと思った時は、2時間ぐらい他の競技をやることがありますね。

〜お気に入りの東京のスポットはありますか。〜

美味しいものを食べに行くのが好きなので銀座・丸の内あたりを開拓中です。肉料理、特に牛肉が好きなので、とりあえず肉を塊で出してくれるようなお店を(笑)。最近、大会や遠征が終わったら必ず顔を出すのがルーティンのひとつになっている常陸牛のお店があって、こだわりの肉料理を出してくれるので、それが僕のパワーの源になっています。

〜現在、競技以外にも講演会や体験会活動も行っているそうですが。〜

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純粋に車いすバスケットボールが広まってくれればという想いがあります。訪問した学校の生徒たちの中で、2020年にボランティアに関わってくれる子が1人でも増えてほしいです。講演会をきっかけに、福祉系の職業や、車いすや義足を作る仕事等、生徒たちの将来の職業選択の一助になってくれればいいなと思います。

〜スポーツにチャレンジしてみたい障害者の皆さんにアドバイスをお願いします。〜

講演会では生徒たちに、目の前に何かやるチャンスがあったら、まずそれをやってみようと伝えています。何か面白そうだからやってみよう、というのはよくありますが、つまらなそうだからやらない、というのは、自分の予測でしかないので、まずは経験して、自分に合うか、合わないかをしっかりと判断してもらいたいですね。やる前に判断しないようにして欲しいです。何がきっかけになるのかわからないので、体験することで気持ちが変わったり、自分に向いてることが見つかったりします。だけど、僕は何も試さずに一直線で車いすバスケを始めて、10何年も続けてますけどね(笑)。

〜最後にスポーツファンに競技の魅力をアピールしてください。〜

車いすバスケットボールは、皆さんが知っている健常者の「バスケットボール」のイメージを遥かに超える激しさ、緻密さ、車いすの操作性、スピードがあります。障害者スポーツとしてより、むしろ一般のスポーツとして観てもらえばいいかなと思います。あとはイケメン選手が多いので(笑)。どんな取っ掛かりでもいいので、多くの人に観に来て欲しいです。

試合ではコート上にいる味方、相手選手、コーチの考えを常に読み取りながらプレイを心がけている篠田選手。それは、このインタビューでも同じでした。こちらの質問意図が読まれているのか、どの質問に対してもスピード&クイックネスで的確に答えてくれて、まさにゲームメーカーの才能を肌で感じました。この力を是非ともパラリンピックでも見せて欲しいです。

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