東京アスリート認定選手・インタビュー(38)大山晃司選手(江東区・中央区) アーチェリー(2019/1/9)

大山晃司選手の写真

【プロフィール】
おおやま・こうじ 1991年10月21日生まれ。警視庁月島警察署所属。
障害:頸椎損傷
2017年 全国身体障害者アーチェリー選手権 W1の部優勝
2018年 JPAF杯 W1の部優勝

車椅子に乗りながら口で弓を引くスタイルで、いまアーチェリーの全国大会で活躍中。警視庁職員初のパラリンピック出場が期待されている大山晃司選手にインタビューしました。

「周囲の声援を力に
警視庁初のパラリンピック出場を目指す。」

〜平成24年、大山選手は体操部の練習で事故に遭われ、その後、リハビリなどで苦労されたようですが、その時の話を聞かせてください。〜

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高校まではサッカーをやっていて、大学生になってから体操を始めました。大学3年生の時、練習で新しい技に挑戦した際にバランスを崩し、首から地面に落ちてしまいました。その時は頚椎損傷で首から下の感覚がまったくない状態になりました。当時は絶望感で何の気力も湧きませんでした。

医師と話し合い、リハビリ次第では元に戻る可能性もあると聞いたことから、中学生の時から抱いていた警察官になりたいという夢を叶えるためにもリハビリを死ぬ気でやってみようと思いました。それから2年半ぐらい死に物狂いでリハビリを続け、ほんの少しずつ、体を動かせるまでになりました。

〜平成27年に警視庁に入庁されて、その1年後に障害者アーチェリーを始めたのはどのような経緯からでしょうか。〜

怪我から入庁までの間、リハビリの目的を兼ねて、ウィルチェアーラグビー(車いすラグビー)や水泳など、いろいろなスポーツに挑戦していました。でも、どの競技も自分には向いていませんでした。他に何か自分に出来る競技はないかと、友人と一緒に都内の障害者スポーツセンターを見学していると、そこで車いすに乗りながら射場で弓を引いている姿を目の当たりにして、これなら自分でも出来そうだと思いました。

私は首から下に麻痺があり、特に右腕が上がらず、弓を引けません。そこで自宅に戻ってから障害者アーチェリーの動画を探したところ、片腕を欠損した方が口で弓を引く姿や、両腕のない方が足で弓を引く姿など障害に応じた様々な姿を見て、やってみたいと思いました。そして入庁直後ぐらいから本格的に始めました。

〜どのように本格的な練習を始めていきましたか。〜

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まずは、障害者スポーツセンターに通い始めました。そこで知り合ったベテランのアーチェリー選手が、道具を購入するまでの間、道具を貸してくれたり、口で弓を引くためのくわえる部分を作ってくださったりと、私のことをいろいろと面倒みてくれました。

また、射場に来た代表選手や、他スポーツの選手たちからも練習の際のアドバイスをいただきました。最初は矢を射てたことが嬉しく、それから一生懸命練習しました。

〜2017年9月に障害者アーチェリー全国大会でみごと優勝されました。大会では何か手応えを感じましたか。〜

この全国大会は、私にとって初めて出場した全国大会であり、私がいるW1クラスには代表選手やパラリンピック経験者がずらりと並んでいたため、到底、優勝出来ないだろうと思っていました。

でも、このような状況の中で優勝出来たことに驚きましたが、同時に私でももっとやればパラリンピック出場を狙えるかもしれないと自信が芽生えました。

〜ご自身では、勝因は何だと思いましたか。〜

とにかく、1射1射、どうやって真ん中に当てられるか無我夢中になっていました。競技時は強い風があって、風への対応が不慣れで経験の浅い自分には厳しかったです。周りの経験豊かな選手たちは柔軟に対応をしていました。そんな中、私はどうやったら食らいついていけるか、必死に考え、風を読むことに集中し、うまいこと読みがはまったことが勝因だと思います。

〜さらに経験を積まれて、自分の強みはどこにあると思いますか。〜

若さと勢いです。パラアーチェリー界全体を見ても競技者の年齢は高く、20代はあまりいません。昨年は、怖いもの知らずで、勢いだけで乗り切った感じがします。

〜大山選手はいくつぐらいまで競技を続けたいですか。〜

アーチェリーが出来る限りは続けていきたいです。ただ、いまは口で弓を引いていますが、長く続けるには口ではなく、いずれは違う打ち方に転向しなければいけません。口で弓を引く方法では、歯や顎が劣化していくため、長くは続けられません。海外では、もともと口で引いてきた人は、肩に装具をつけて動く右手でスイッチを入れて放つとか、顎で触れて放つとか、競技生活を長く続けられるような打ち方に切り替えています。東京2020大会の前なのか、もっと先になるか、いずれは私も切り替えていかなければと考えています。

〜東京2020に向けての課題、目標などを教えてください。〜

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おそらく私が現役中では、最初で最後の東京開催だと思うので、何が何でも出場したいですし、出るからには勝ちたいです。警視庁からパラリンピックに出場した選手はまだ居ないので、その第一号にもなりたいです。

普段勤務している地元・月島の人たち、アーチェリー関係者、警視庁の職員のためにも、ぜひ、東京パラリンピック大会で活躍している姿を見せることで恩返ししたい気持ちで練習に励んでいます。ホームでの開催は応援してくださる人も多いので、目には見えないけど、たくさんの声援が試合でも後押ししてくれると思います。

〜「東京アスリート認定選手」に認定されて、何か意識が変わりましたか。〜

このように取材してもらい、ホームページに掲載されることで、認知度も上がり、「アーチェリーの大山」「警視庁の大山」として世間から見られると思います。見られている意識を持ち、模範となれるように行動していかなければと思っています。

〜仕事と競技の両立はどのように行っていますか。〜

仕事を最優先にして働いています。やはり仕事があってこそアーチェリーが出来ているので、それ以外の時間を競技に当てており、勤務終了後、そのまま練習に向かっています。仕事はカレンダー通りなので土日も練習や大会への出場へ当てています。

周囲の職員からは、あまり残業にならないように気遣ってもらってますし、普段も重たいものを持ってもらったり、困っている時には声をかけていただいたりして、ありがたいです。

試合の時には、会場まで応援に来てくれる人もいます。周囲の皆さんが私を気にかけてくださるのは、仕事をしながら競技を行う者にとって嬉しいことです。

〜休日や空いている時間はありますか。もしあれば余暇の使い方を教えてください。〜

いま休日は全部アーチェリーにつぎ込んでいます。自分が望んでやっているので苦ではありません。移動時間に中学時代から好きなB'zの音楽を聴いたり、練習終了後、友人たちと食事をすることで気分転換しています。

〜東京でお気に入りのスポット、おすすめの場所はありますか。〜

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月島署管内にある「もんじゃストリート」がおすすめです。美味しいもんじゃのお店がずらりと並んでおり、お店を選ぶのに迷ってしまいます。また、この辺は橋が多く、仕事帰りに橋の上から川面に映るタワーマンションや屋形船、夜景や夕景がキレイで好きです。

〜スポーツにチャレンジしてみたい障害者の皆さんにアドバイスをお願いします。〜

興味のあるスポーツがあるのであれば、まず体験していただきたいです。自分も水泳やウィルチェアーラグビーもやってきました。何が自分に合うのか、興味のあるスポーツから始めてみればいいかなと思います。それで、どんどん上達して、競技者になることだってあります。スポーツは人を感動させたり、喜びを与えたり、自分自身を高めてくれるので、ぜひ、やってみてほしいです。

〜これからアーチェリーファンになる方にアーチェリーの魅力をお願いします。〜

いろんな障害の人がいるので、装具、口、手などどんな打ち方があるか見てもらうと分かりますが、残された機能を活かして行うスポーツです。健常者と区別することなく誰にでも挑戦でき、楽しめるスポーツであることが魅力だと思います。

中学時代に出会ったお巡りさんの影響で警察官になろうと思った大山選手は、その警察官への憧れを胸にリハビリを頑張ったそうです。現在は、東京2020大会への憧れと地域や周囲の人たちの想いを受け、競技に打ち込んでいます。職場からの理解も深く「期待されるだけの実力はあると思います。限られた時間のなか、集中すれば結果はついて来るはずです。」と上司もコメントされています。実直に夢を追いかける大山選手の姿に、さらに応援者も増えるのではないでしょうか。

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