~オリンピック・パラリンピックを目指すアスリートを応援~
東京アスリート認定選手・インタビュー(12)
柳川由太郎選手(杉並区) ライフル射撃 (2017/3/24)

東京都では、東京のアスリートが、オリンピック・パラリンピックをはじめとした国際舞台で活躍できるよう、競技力向上に向けた支援を実施するとともに、社会全体でオリンピック・パラリンピックの気運を盛り上げるため、「東京アスリート認定制度」を創設しました。

このページでは、認定選手の皆さんに「スポーツを通して自分を成長させ、スポーツと社会のよりよい関係を考えていこう」というテーマで、インタビューをしていきます。

柳川由太郎選手の写真

第12回 柳川由太郎選手(杉並区)ライフル射撃

【プロフィール】
やながわ・ゆうたろう 1995年12月6日生まれ 明治大学所属
全日本選手権優勝(2016)
全日本学生選手権2位(2016)
日本学生選抜ライフル射撃選手権8位(2015)

感覚を言語化することで、"再現性"を高めたい
豊富な練習量と、独自のやり方で成長してきた

家族旅行の海外で出逢った射撃、この競技は自分に向いていると思った

オリンピック競技種目の「ライフル射撃」は、ライフル銃またはピストルで固定された的を狙い、制限時間内に決められた弾数を撃ち、その的中した合計点数で勝敗を争う競技である。第1回のアテネオリンピックから実施されており、参加国数も陸上競技に次いで多い。国内ではビームライフル種目があり、銃所持許可免許がなくても手軽に扱うことができるため、体格や性別、年齢を問わず楽しまれているスポーツでもある。
 柳川由太郎選手は、ライフル銃を用いて競技を行う3種目でトップを目指している。男子の3種目とは「50m先にある小さな的に、膝射・伏射・立射の3姿勢でそれぞれ40発ずつ撃つ"50mライフル3姿勢120発競技"」「50m先の的に伏射で60発撃つ"50mライフル伏射60発競技"」「10m先の的に立射で60発撃つ"10mライフル立射60発競技"」だ。50mの種目には実弾をこめるスモールボアライフルが使われ、10mの種目はエアライフルが用いられる。

競技中の写真

柳川選手がライフルに出逢ったのは中学校3年生の時、家族での海外旅行がきっかけだった。「グアムの射撃場へ行ったときに、初めてライフル銃を持って狙った瞬間、この世界に自分しかいない感覚になりました。そして的に集中して狙い撃ち、標的の中心に当たったときは気持ち良く、この競技は自分に合っているかもしれないと思いました。小学3年生から中学生までは野球部でしたが、熱狂するほどのめり込めていなかったので野球はもう続けなくてもいいかな、という気持ちもあって。それで、通っていた明治大学付属中野中学・高等学校が、ライフル射撃の伝統校という縁もあり、高校進学を機に、射撃部へ入部しました」
まず始めたのは高校生の正式種目ビームライフル。光線を発射して10m先の固定された的に当てる競技だ。「運動センスがないことは自覚していた」ので、人一倍の練習量はこなしたが、思うような成績につながらない。負けず嫌いの柳川選手は、それが悔しくてたまらなかった。「これだけ練習しているのになぜうまくならないのだろう。その理由が知りたい」と、明治大学に進学後も射撃部へ入部した。明治大学射撃部といえば創立95年を超える名門で、入部してくる選手はインターハイや国体での優勝経験があるようなトップレベルばかり。そこへ自分に足りないものを探しに、柳川選手は思い切って飛び込んだ。

再現性を高めるため、感覚を言葉にしてノートに書き残した

大学ではビームライフルに代わり、例外を除いて18歳から銃所持許可されるエアライフル競技を始めた。10m先にある固定した的をめがけて発射するが、圧縮された空気で弾を飛ばすため威力は強力だ。高校時代からのトップ選手は新たに始めたこのエアライフル競技でも、どんどん腕を上げていく。「皆はコーチの言うことがすぐに呑み込めて体で再現できていましたが、僕は二倍三倍時間がかかりました。高校時代のようにたくさん練習してもこれではまた置いていかれる。射撃のセンスがないならどうすればいいか。今度こそ、負けたくない」 柳川選手は必死に考え、ひとつの方法論にたどり着いた。「感覚の言語化」である。
競技には、同じ動作を正確に繰り返し成功させることを求められるものが多い。特にライフル射撃やアーチェリーのように、的に向かって何発も何本も同じように正確に的に当てる競技は"再現性"を高めることが必要とされる。うまくいったときの動作を機械のように繰り返すことができたら的中率は上がる。しかし、人間にはそれができないから差がつくのだ。

競技中の写真

「再現性を上げるため、自分の射撃の良かった状態の時の事をできる限りすべて言葉にしてノートに書き残したらどうだろうか。たとえば、腕の使い方や様々な角度、足腰の感覚など、曖昧な感覚も細かく思い出して書いてみる。そしてそれらを忠実に、同じように再現してみたらうまくいくのではないかと考えました」
その作業を積み重ねていく中で効果が出始めた。点数も伸び、同時に今まで理解できなかったコーチからの指導も驚くほど頭に入ってきたという。
 「自分の書いたものを見て、もっと言葉にできるのではないかと突き詰めていったら、競技自体の深みにも気づくことができました。何も書かず、感覚だけで射撃していたころに比べると、このやり方ができることが自分の強みだと思えるようになりました」 柳川選手は、2016年の全日本選手権50mライフル3姿勢120発競技で、リオデジャネイロオリンピックの代表選手を抑えて優勝を果たした。高校のときにみつけられなかった、強くなるためのヒントをようやくみつけることができたと思った。

据銃力(きょじゅうりょく)は人一倍身についている強みを自覚し、自信を深める

感覚の言語化で再現性を高めるという独自のやり方も取り入れ、以前よりパフォーマンスは上がっている実感はあったが、試合で勝ち切れない。精神面での強さが自分には足りないと感じた。
「このスキルなら自分は日本一だと思えるようなものを自覚し、より磨かなくては、と思いました。それは何だろうと振り返った時、一人残って練習したり、撃たない人がいて場所が空いていたら率先してそこに入って撃ったりと、銃を持つ時間は人よりも長かったので、銃を安定して持ち続ける力、"据銃力(きょじゅうりょく)"は上がっていると気づきました。そしてその部分をもっと強みとして認識しようと。インカレ前には、銃を持って喜んでいる自分が描けていたので、メダルもしくは優勝もあるかもしれないと、思っていました」 結果はインカレで準優勝し、前述の全日本選手権での優勝につながった。よいイメージが持て、スキルに対しての自信も上がると、比例してメンタルも強くなれることが実証できた。

競技中の写真

柳川選手は、インカレ最終日に射撃部の主将に任命された。「チームを日本一にしたい」という強い気持ちがある一方で、不安もあった。そのとき力になったのが、センスがないと悩んでいた頃から自分のために書いていたあのノートだった。「技術を全て言葉に書き起こしているので、後輩を指導する時に役に立つのではないかと」
更に照れくさい気持ちを抑え、初めて父親に相談をした。「チームを日本一にしたい」と伝えると、「まずはお前が日本一になって引っ張っていかなければならないぞ」という言葉が返ってきた。そして、チーム運営のアドバイスをもらっているうちに射撃は団体競技でもあることに気付かされた。「ライフル射撃は個人競技ですが、一人で戦っているのでなく、みんながいるから、頑張ろうというのもある。だからこそ主将として、自分がやらなきゃ、誰がやる。そんな強い気持ちを持てるようになれました」。
今の目標は国体出場だ。東京は日本一の激戦区で、狭き門なのだ。「まだ国体には出場したことがないので、東京アスリート認定選手に選んで頂いたからには国体へ出場して優勝し、東京都に貢献したいと思っています」
全日本選手権優勝を機に、国際大会への出場も現実味を帯びてきた。「どんな世界が広がっているのか見てみたい。国旗を背負って戦うことが楽しみです」
不器用でも、負けず嫌いな性格で自分なりのやり方を見つけ、磨いて成長してきた。課題があるほど、柳川選手は新たな引き出しを増やしていけるだろう。

ライフル射撃とは

オリンピックに採用されている男子種目は3種目。
◎50mライフル3姿勢120発競技(スモールボアライフル)は、50m先にある直径11.24㎝の的(黒点)の中にある10.4㎜の10点をめがけ、直径6.5㎜の火薬弾(実弾)を撃つ。制限時間2時間45分の間に膝射・伏射・立射をそれぞれ40発ずつ撃ち合計点数を競う。満点は1200点(10点×120発)。
◎50mライフル伏射60発競技(スモールボアライフル)は50m先にある的に向かって制限時間50分の間に伏射で60発撃ち合計点数を競う。満点は654点(10.9点×60発)。
◎10mライフル立射60発競技(エアライフル)は10m先にある直径3.05㎝の的(黒点)の中にある0.5㎜の10点をめがけ、直径4.5㎜の鉛弾を圧縮した空気で撃つ。制限時間1時間15分の間に立射で60発撃ち合計点数を競う。満点は654点(10.9点×60発)。
スモールボアライフルは20歳以上(例外もあり)、エアライフルは18歳以上(例外もあり)になったら警察に銃所持許可申請を行うことができる。高校生まではビームライフルという光線銃で固定された的を撃つ安全な競技を行っている。

ライフル射撃×東京都

ライフル射撃は日本人にはあまり馴染のないスポーツであり、実際に体験してみたいと思ってもどこへ行けば良いか分からない人も多い事だろう。しかし、東京都は実はエアライフルやエアピストルの射撃場が充実している。都内の、一部の射撃場ではビームライフルを体験し、楽しめる環境がある。
公益社団法人日本ライフル射撃協会
http://www.riflesports.jp/
東京都ライフル射撃協会
http://www.tokyo-rifle.org/

【スポーツを通して身に着けられるライフスキル】

自分の得意、不得意を分析し、得意を生かして不得意をカバーすることで全体のパフォーマンスを上げていく。壁にぶちあたったときに、どうそれを乗り越えていけばいいのか、人に聞いたり、本やネットから情報を得たり、自分でいろんなことを試してみたりと、行動することで方法が見つかる。なんでもすぐにできないからこそ、立ち止まって考える機会ができ、そのときに考えたことを、同じように悩んでいる人たちにアドバイスすることもできる。負けず嫌いは、すぐに諦めない。あがいたところから、新たな道が拓ける。