東京都では、東京のアスリートが、オリンピック・パラリンピックをはじめとした国際舞台で活躍できるよう、競技力向上に向けた支援を実施するとともに、社会全体でオリンピック・パラリンピックの気運を盛り上げるため、「東京アスリート認定制度」を創設しました。
このページでは、認定選手の皆さんに「スポーツを通して自分を成長させ、スポーツと社会のよりよい関係を考えていこう」というテーマで、インタビューをしていきます。
【プロフィール】
おおうちやま・たくみ 2004年5月26日生まれ 中野区立武蔵台小学校6年生
所属チームは、浦安ジュニア車イステニスクラブ
好きな映画はスター・ウォーズ・シリーズ
彩の国 川越水上公園車いすテニス大会(2016) ジュニアクラス準優勝
第33回日本車いすテニス選手権大会 ジュニア大会 第3位(2016)など
「コートに立ったら一人。誰も助けてくれない。だからテニスはメンタルが強くないと、大事な大会で勝ち切れないと思います」。
車いすテニスの大内山匠選手は、テニスで一番大切なことは「強い気持ちを保ち続けること」だと言い切る。それは、痛い敗戦の経験から学んだという。
2016年4月、大内山選手は自分より力が上だと言われる選手を相手に、初めて接戦に持ち込むことができた。相手は同い年だが競技歴が長く、パワーもあって、過去に何度か対戦したが一度も歯が立たなかった。しかし、この日は得意のリターンが決まり、相手を追い詰めていっている手ごたえがあった。流れは完全に大内山選手。本人はもちろん、観客も皆"大内山選手の勝利"を確信した時、落とし穴があった。相手は追い詰められ奮起したのだろう。試合後半に、ギアチェンジしたかのように、一気に3ゲームを連続奪取してきた。圧されるほどに「勝てるかもしれない」から「負けるかもしれない」へ。心が折れ、試合に敗れた。「挽回されていくうちに心がどんどん沈んでいくのが自分でも分かりましたし、実力の差も感じました」。何より最後まで戦い抜けなかった自分自身が許せなかった。コートを出ると、涙が止まらなかったという。
以来、「気持ちを強くしたい」一心で、テニスの本などを読みヒントを探した。特に響いたのが、錦織圭選手の強さとは何か、マイケル・チャンコーチが錦織選手に何を教えたのかなどを、スポーツ心理学的に分析した一冊だった。「コーチとの会話やいろいろな経験を通して強くなっていった錦織選手が、全米オープンの決勝前に言った『勝てない相手はもういない』という言葉が、一番印象に残りました。僕もいつかそんなふうに言い切れる、自信を持って試合に出られる選手になりたいです」。
1歳半の時に脊髄の病気に罹って以来、大内山選手は車いすを利用している。テニスを始めたのは小学3年生のとき。
「車いすテニスをしていた友人から、よかったら、見るだけじゃなく、ちょっと試合も出てみたらと誘われて、ルールも分からなかったのですが、参加してみることにしました。それで、ちょっとだけのつもりで、出てみたら、なんと初めての試合で勝ってしまって。それまでにも、車いすバスケやシッティングバレーボールをしたことがありましたが、やってみたらテニスが一番楽しいかもしれないと思いました」。
車いすテニスができるところを探したら、北区にある東京都障害者総合スポーツセンターでならということになり、通い始めることに。そこで、車いすテニス界の先駆者でかつて国枝慎吾選手の指導者でもあった星義輝さんと出会った。
「何度か通って練習をさせて頂いているうちに、星さんが『もし本気でテニスをしたいなら』と、買えば数十万もする競技用車いすを、無償で貸し出している団体に交渉して、手配して下さったのです。その車いすを目の前にしたとき、これからはテニスを、自分は本気で頑張っていくのだなぁという実感が湧きました」。
ここでの練習に加えて、週3回は浦安ジュニア車イステニスクラブでも練習。リハビリ施設での体づくりのトレーニングにも通うなど、遊ぶ時間がないほど今はテニスを中心に大忙しの毎日を送っている。
「やめたいと思ったことは一度もありません。車いすを用意してくださったことへの御礼の気持ちもこめて、応援してくださる人たちに、本気で頑張っている姿を見せたいです」。
大内山選手の当面の目標は、国内ジュニア大会での上位入賞。テニスを始めて3年、まだまだ越えていきたい背中は、目の前にたくさんある。
「得意なのは相手のサービスを打ち返す、リターンです。コーチには、常に前に出るプレーをするようにと言われているので、気持ちもプレーも強気でいられるように、しっかり練習したいと思います」。
憧れのテニス選手の話題になると、小学生とは思えないほど論理的、かつ明快に言葉が返ってくる。本やビデオでの研究も怠りないという。練習会や大会などで交流のある車いすテニス界のレジェンド・国枝選手は最も尊敬する選手だ。
「何度かお会いして、名前を覚えていただけました。『匠』って呼んでもらえると、すごく嬉しいです。先日の練習会では質問できる時間があったので、車いすの漕ぎ出しや、ボールにうまく追いつく方法、打つコツなど、たくさん教えてもらいました」。
今春には中学校に進学する。テニスの次に興味があるのは、英会話。
「海外の試合に出られるようになったら、ジュニア選手にいろんな質問をしてみたい。フェデラー選手の出身国であるスイスにも行ってみたいですし、将来はパラリンピックやグランドスラムに出場できる選手になって、海外で活躍したい」。
車いすテニスをきっかけに、小学6年生の世界が大きく広がっていこうとしている。
テニスに関する本を愛読する大内山選手。この日の、インタビューで紹介していたのは『錦織圭 マイケル・チャンに学んだ勝者の思考』。この本を読んで感じたこと、学んだことを読書感想文にまとめて、夏休みの宿題として提出したところ、読書感想文のコンクールで表彰されたとのこと。
本気で強くなりたいという気持ちが伝われば、いろんな人が応援してくれる。そして応援してくれることに感謝して、強くなって恩返しがしたいと思うことで、取組姿勢はさらに真剣さを増していく。コートでは一人で戦わなければならない競技だからこそ、プレーだけでなく、人としてのブレない強さも身につけたい。そのために、何ができるのか。絶えずそういったことを考え続け、できることを実行していけば、自主性、自発性が磨かれる。