身体ひとつで勝負する、パラ水泳に魅力を感じて

東京に続き、パリで2度目のパラリンピック出場を果たした辻内彩野選手。パラリンピックのわずか数カ月前にクラス変更を余儀なくされたものの、堂々の泳ぎで女子100m自由形(S12)で銅メダルを獲得した。メダルにこだわるのではなく、自分らしい泳ぎを貫いたという辻内選手に、パリ2024パラリンピックのことや、今も暮らしているという江戸川区について伺った。

(プロフィール)
つじうち・あやの 1996年10月5日生まれ。東京都江戸川区出身。三菱商事所属。小学3年生で水泳を始め、2017年からパラ水泳に転向。2019年世界パラ水泳選手権大会(イギリス)にて100m平泳ぎ(SB13)3位他、2022年マデイラ2022WPS世界選手権大会(ポルトガル)にて100m自由形(S13)2位他、2023年マンチェスター2023世界選手権(イギリス)にて50m自由形(S13)4位他、2024年パリパラリンピックにて女子100m自由形(S12)銅メダル他、多数の好成績をおさめる。

(注)辻内彩野選手の「辻」の字は「一点しんにょう」

突然のクラス変更。考える暇もなく、パラリンピックへ

パリ2024パラリンピックでのメダル獲得、おめでとうございます。

ありがとうございます。パラリンピックに出場する数カ月前に障がいのクラスが変更になり、考える暇もないくらいあっという間にパラリンピックになってしまいました。
タイムを出せば自ずと結果がついてくるという考えなので、東京2020パラリンピックの時よりも速く泳いで、自己ベストを更新することを目標にパリに向けて練習を積み重ねてきました。タイムとしては満足できるものではありませんでしたが、メダルを獲得できたことは良かったと思っています。

障がいのクラス(※)が変更になることでの影響は、とても大きかったのではないですか。

今までは13クラスという視覚障害でも程度の軽いクラスでしたが、2024年4月にアメリカでクラス分けを受けたら症状が進行していることが確認され、12クラスになりました。
パラ水泳はクラスによってメインとなる種目も変わります。私はパラ水泳を始めてからの6年間はずっと50m自由形がメインでしたが、100mに距離がのびました。50mよりも100mのほうが得意ではありますが、50mという短距離で一気に出し切る練習を重ねてきたのに、100mに距離がのびると一気に出し切るわけにはいきません。タイムは思うほど出ませんでしたが、数カ月という短い準備期間で挑んだわりには、思いどおりのレースペースで泳げたと思っています。
※視覚障害のクラスは3つに分かれています(11~13クラス)。詳しくは下記サイトをご覧ください(下にスクロールするとクラス分け表があります)。
水泳 | 競技紹介 | パラスポーツスタートガイド

パラ水泳を間近で見て、おもしろい世界だと感じた

もともと水泳選手として活躍された後に、パラ水泳に転身されました。パラ水泳との出合いは?

怪我が多かったこともあり、高校を卒業してからは水泳から遠ざかっていました。しかし3歳下の妹も水泳をやっていて、応援に行くたびにプールの塩素の匂いとか、みんなが泳いでいる姿を見ると、自分ももう一度泳いでみたいと思うようになりました。そんな時に同じ高校の水泳部に所属していて、リオパラリンピックに出場した森下友紀選手に辰巳国際水泳場で大会あるから見に来たらって誘われたんです。近いから自転車で行ったのですが、初めてパラ水泳を見てこの世界でやってみたいと思いました。

パラ水泳の世界は、辻内選手にとってどのように映りましたか。

辰巳にパラ水泳の大会を見に行った時に、車いすでスタート台のところまで行ってプールに飛び込んだ選手がいました。どこかしら使いにくさを抱えている身体で、選手たちがどんどん泳いでいく姿を見て、すごい世界だと驚きました。
陸上競技や球技など多くのパラスポーツは、身体をサポートする道具を使いますが、水泳は水の中に入ってしまえば、自分の身体だけ。身体ひとつで勝負するところが、パラ水泳の魅力だし、私もそこにおもしろさを感じたんです。挑戦したいと素直に思いました。

パリの悔しさをロサンゼルスで晴らしたい

今後の目標は何ですか。

2025年4月に、パラ水泳の国際大会であるワールドシリーズが静岡で開催されます。日本で初めてワールドシリーズが開催されるので楽しみですし、十分な結果を残すことが、ロサンゼルスパラリンピックに近づく第一歩だと思うので、ベストを尽くしたいです。パリでメダルは獲得できましたが、タイムとしては悔しさが残ったので、ロサンゼルスでもう一度挑戦して、悔しさを晴らしたいです。

公園の多い江戸川区。思い出の詰まった公園がたくさん

東京ゆかりのパラアスリートとして、生まれも育ちも江戸川区と聞いています。

今も江戸川区に在住しています。江戸川区は東京23区内ですが、千葉県との境目にあるせいか、都心よりもガヤガヤしていなくて静かに暮らせます。公園が多いところがいいですね。
以前住んでいた家の近くに古川親水公園があって、小さい頃はよく遊んでいました。古川親水公園では毎年夏に古川祭りが開催されていて、小学生の時はブラスバンド部に所属していたので、古川祭りの開会式で演奏したりもしましたね。西葛西の行船公園の中にある自然動物園にもよく行っていましたし、葛西臨海公園内の葛西臨海水族園には今でもぼーっとしに行きます。リラックスできる場所が多く、競技に向かうメンタル面でも良い環境です。