走る楽しさ、喜びを貫いて。結果はその後についてくる

身体を動かすことは子どもの頃から好きだったものの、身体への負担を考え体育系のクラブ活動には参加してこなかったという佐伯菜々美選手。そこから一転し、陸上競技を始めて1年目に100m(T35)で日本記録を打ち出し、2024年10月に佐賀県で開かれるSAGA2024全障スポ(全国障害者スポーツ大会)への出場が決定した。日々の練習のことやSAGA2024全障スポへの意気込みをうかがった。

(プロフィール)
さえき・ななみ 2002年生まれ。東京都青梅市出身。AC・KITA所属。2022年、大学に通いながら陸上競技(100m)を始める。2023関東パラ記録会にて100m(T35)の日本記録(18秒20)を樹立。第35回日本パラ陸上競技選手権大会(2024年6月)にて100m走(T35)の大会記録(18秒32)を樹立

自分に合ったパラスポーツがある!

パラスポーツを始めたきっかけを教えてください。

大学入学後に、就職セミナーを受けました。そこで大学生活で勉強以外に力を入れることをつくりましょうと話がありました。大学の体育系サークルに入ろうかとも思いましたが、私の通っている大学はスポーツが強いので、学校の体育の授業程度の経験しかない私では、練習についていくのは難しいと判断しました。
そこでパラスポーツを始める方法はないかと大学の相談室で相談したものの、なかなかしっくりくるものが見つからず、半年後、職員さんが「東京都パラスポーツ次世代選手発掘プログラム(*)」を探してきてくれました。プログラムの一つとして開催される競技体験会で、自分に合う競技が見つかるといいなという期待を込めて2022年度のプログラムに参加したのがパラスポーツとの出会いです。
*東京都・東京都障害者スポーツ協会が実施する、パラリンピックやデフリンピック等の国際大会を目指す方をはじめパラスポーツに興味がある方に、競技スポーツと出会う場を提供するプログラム
https://www.para-athlete.tokyo/

「東京都パラスポーツ次世代選手発掘プログラム」が、パラスポーツを始めるきっかけになったということですね。

そうなんです。このプログラムがなければ、自分がパラスポーツを始めることはなかったと思います。パラスポーツの情報はメディアなどであまり取り上げられないし、取り上げられたとしても義足や車いすの方が多いです。私は生まれてまもなく脳性麻痺になって、両手足に痙縮があって動かしにくさやこわばりがあります。普段は両足に装具をつけて生活をしていますが、健常者のみなさんと同じように生活しているので、装具をつけていなければ障害があると気づかれにくいです。そんな私の障害の程度でも挑戦できるパラスポーツがあることを知りませんでした。
だから私に合った競技があるとわかったことが嬉しかったですし、競技体験会を通して自分の現在の実力を把握できて、クラブチーム・AC・KITAに所属するに至ったので、良いきっかけになりました。

記録ではなく、楽しく走ることに集中したい

SAGA2024全障スポへの出場が決まっています。

SAGA2024全障スポでは、私は22という区分で100mと走幅跳の2種目に出場予定です。
2023年の関東パラ記録会で日本記録を出せましたが、記録を伸ばしたいというよりも、楽しく走れたことのほうが記憶に残っています。ですからSAGA2024全障スポでも記録にこだわるよりも楽しく走ることを重視したいです。

SAGA2024全障スポに向けてどのようなトレーニングを行っていますか。

筋トレをやりすぎると筋肉が硬くなって痛みが出てしまうので、筋肉を柔らかく保つためにストレッチをするといった日々のトレーニングを大切にしています。自分の身体とうまく付き合っていくことも、走り続けるために重要なことです。
それからAC・KITAでの練習にも定期的に参加しています。AC・KITAでは健常者の方も一緒に練習しています。同じ障害がある人同士だからこそ共感できることはたくさんありますが、健常者の方と一緒に練習することで視野が広がると感じています。逆に健常者の方よりも障害のある方のタイムが良かったりすると自信にもなります。走る技術を学ぶ以上に得られるものがあると感じています。

人とのつながりが温かい地元に暮らして

学校での勉強との両立で工夫していることはありますか。

学生なので勉強が最優先だと思っています。平日は自主練で、週末はクラブチームの練習に参加しています。これから就職活動もあるので、なるべく身体への負担を軽減することも大事だと考え、実家の最寄り駅に近い青梅市内で一人暮らしを始めました。

青梅市は佐伯選手にとってどんな場所ですか。

大学に通ったり、練習をこなすためには、23区内に近い場所に住むほうが便利だとわかっていますが、住み慣れた場所なので愛着があります。特に私の実家の近所は人との繋がりが強くて、小学生の頃は家から小学校まで遠かったから、近所の人が車で送ってくれたり、顔を見れば話をしたり、温かい交流があって好きです。

パラアスリートとの交流に期待

今後の目標を教えてください。

まずSAGA2024全障スポでは、今の自分の力を出し切るだけでなく、私と同じ障害がある方だけでなく、さまざまな方と交流したいです。これまでの生活の中で、ほかの選手と交流する機会が少なかったので、どんな練習をしているのかなど話を聞けることが楽しみです。
それから就職活動をクリアして社会人になったら、続けられる範囲でパラスポーツを続けていきたいです。