一発一発を後悔しないように全力を尽くしたい

ライフル射撃は、ライフルとピストルの二つの種目に大きく分かれている。そのピストル射撃で第79回国民スポーツ大会(わたSHIGA輝く国スポ)に出場が決まった北嶋那実子選手に大会への意気込みや、射撃という競技の魅力について伺った。

きたじま・なみこ 1984年生まれ。広島県福山市出身。Ricplus株式会社所属。警察官として働くなかで、上司の推薦により競技ピストルの世界へ。2014年全日本ライフル射撃競技選手権大会優勝など、国内外の大会に出場した後、2018年に警察を退職。2023年特別国民体育大会(燃ゆる感動かごしま国体)成年女子10mエアピストル(60発)優勝、2024年全日本ライフル射撃競技選手権大会25m種目4位。

警察官からアスリートに転身

ピストル競技を始めたきっかけを教えてください。

私は子どもの頃から憧れていた警察官になってから、警察学校で行う拳銃の訓練で初めて銃に触りました。警察官には柔道や剣道などいくつかの術科があって、拳銃もそのうちの一つです。上官から術科を強化するための特別訓練員にと声をかけられて、ピストル競技を始めました。
最初は一定の成績を上げていましたが、徐々に射手としても人としても、成長が止まってしまったように感じていました。ピストル競技は続けたい、そのためには警察官という恵まれた環境から離れ、敢えて厳しい状況に身を置くことで自分を昇華させたいと、射撃への情熱に突き動かされ、警察官を辞めてアスリートとして競技に挑戦する決意をしました。

ピストル競技の魅力とはどんなところにあるでしょうか。

私のピストル種目はファイナルに進出する前の本選で1時間15分以内に60発を撃ちます。長い戦いですが、その戦いの中に選手それぞれの特徴なども見て取れておもしろいですよ。それこそ世界トップクラスの選手はもう圧倒的に再現性が高いです。的の中心に当たったときの姿勢、呼吸、瞬きの瞬間まで正確に再現するので、何度も的中できる。反対に不安な気持ちに揺さぶられると集中できません。そうした選手の挙動が観客の皆さんにも伝わると思います。

子どもを育てることで、自身の成長を実感

北嶋選手はママアスリートでもあります。子育てと競技生活の両立で苦労することはありますか。

出産するまでは、子育てにかかりきりになる時間によって、自分の技術が損なわれるような気がしていました。それを食い止めたくて、できるだけ早く練習に復帰しようと焦る気持ちがありましたが、子育てのなかで自分の成長を感じられることもあり、有意義に感じることが増えました。
今は高校の部活動指導も行っていますが、子どもたちに射撃の魅力を伝えたいと考えるようになったのも子どもの存在があったからです。子育ては忙しく大変なことも多いですが、私自身は産むことを選択して良かったと思っています。子を産む産まないに限らず、「今ある自分を正解にする」という意味では皆一緒だなと思いました。

競技復帰するうえで利用された制度などはありますか。

独立行政法人日本スポーツ振興センターの女性アスリートの支援プログラム※を受けました。エアピストルの練習場は東京都内にもありますが、火薬を使う銃の練習は千葉県にある練習場まで行く必要があります。移動だけでも数時間かかるので、子どもを預けて練習に行っても、落ち着いて練習できないことがあり、悩んでいたときにこの制度を知りました。味の素NTC・イースト(東京都北区)にある託児所を利用させてもらうなどしましたが、こういった制度を活用できる環境がもっと整うといいなとは思っています。

結果も大切、けれど後悔の残らない試合にしたい

2025年10月から開催される第79回国民スポーツ大会(わたSHIGA輝く国スポ)に出場されますね。

国スポは都道府県対抗の団体戦でもあるので、他の大会にはない独特の雰囲気があります。自分の競技中に東京都の選手たちの応援があり、チームで戦っている感じがしますね。
2023年に出場したときは、優勝できたらラッキーだと思っていました。前半は点数が伸びなくて焦りましたが、気持ちを切り替えて諦めずに粘り強く取り組んでいった結果、後半で点数が伸び優勝することができました。今回も自信があるわけではありません。もちろん結果を残したいですが、一発一発を後悔しないように集中することを大切にしたい。それが応援してくださっている方たちへの礼儀だと思っています。

今後の目標を教えてください。

やはりオリンピックへの出場です。まだまだ遠い存在だとは思いますが、少しでもいいので近づきたいですね。自分が表彰台に立っているイメージだけはしっかりできています!

子どもたちとリフレッシュできる公園

東京育ちのアスリートとして、ゆかりの地は世田谷区だと聞いています。世田谷区で思い出深い場所はありますか。

世田谷総合運動場体育館にはエアーライフル場があるので、練習でよく訪れていますし、隣の砧公園には子どもたちと一緒によく遊びに来ています。私が遠征でいないときでも、主人が子どもたちを連れて遊びにいくので、その様子を写真や動画でたくさん送ってくれるのが嬉しいです。家族揃ってお気に入りの場所です。