東京アスリート認定選手・インタビュー 多川知希選手(北区・荒川区)陸上競技(身体) (2018/09/06)

渡邉瑠選手の写真

【プロフィール】
たがわ・ともき 1986年2月6日生まれ。東京電力ホールディングス株式会社所属
障害:右上肢機能障害
2008年 北京パラリンピック陸上競技男子100m出場、200m出場
2012年 ロンドンパラリンピック 陸上競技男子100m5位、4×100mリレー4位
2016年 リオパラリンピック 陸上競技男子4×100mリレー銅

北京、ロンドン、リオと続けてパラリンピックに出場し、リオパラリンピックでは陸上競技男子4×100mリレーで銅メダルを獲得した多川知希選手にインタビューしました。

「みんなも障害者スポーツにチャレンジしよう!」

〜いままで数々の大会に出場してきた多川選手ですが、ご自身の競技者としての強みはどこにあると思いますか。〜

中学生の頃から陸上を続けてきたことが一つ。もう一つは陸上以外の違う世界を見ていることだと思います。いまは仕事と競技を両立しており、陸上だけに特化した生活を送っているわけではありません。二足のワラジというのか、陸上以外で学んだ、人間同士の関係性、人との付き合い方などが、競技に活かせているのが、自分の強みだと思っています。

〜パラリンピック出場を視野に入れ始めたのはいつ頃でしょうか。〜

多川知希選手の写真1

先天性の障害をもっていますが、中学・高校でみんなと変わらず、学校の部活として陸上競技をしており、パラリンピックの存在を知りませんでした。そのため、大学では陸上競技を続ける気はありませんでした。そんな時に親から「せっかく中高と陸上をやってきたんだから」と、パラリンピックの世界を勧められました。

中学・高校時代は、「投てき」をやっていたのですが、これまでの学校の部活動のように投てき用具を自由に使えるような練習環境がなかったため、そういった制限がなく練習がしやすい「短距離」に転向しました。元々リレーの選手でもありましたから転向することに抵抗はありませんでした。それで出場した障害者の大会で活躍できたことで、楽しくなって、本気でやってみようと思い、パラリンピックを意識し始めました。更に、パラリンピックの世界を知った後、その世界の人にパラリンピックの楽しさを教えてもらい、北京パラリンピックを目指しました。

〜2008年の北京から、ロンドン、リオと続けて出場されたわけですが、パラリンピックは特別なものでしたか。〜

多川知希選手の写真2

パラリンピックは国を挙げての大会なので、規模が全然違うなと思いました。大会会場では数万人の観客が応援してくれて、自国の選手が出た時の盛り上がりは特にすごかったです。2020年に東京で開催されるとなると、国の代表として出場して、ぜひ、その迫力を味わいたいと思います。

〜パラリンピックで印象に残っているエピソードを教えてください。〜

一番はロンドンパラリンピックの時。9万人の観客が見守るなか、100m決勝を走ることが出来たことです。当時の映像の一部は、今でも広告などの他の媒体で使われていて、自分も錚々たるメンバーの中に入っているのが嬉しいです。自分のなかで一番印象に残る大会でした。

あとは大会が終わってからの反響が大きかったのがリオパラリンピックです。これまでパラリンピックはダイジェストで放送されてきたのですが、リオ大会は初めてテレビで生中継されました。日本時間の朝5時から生放送でリレーの決勝を観て応援してもらう中、メダル獲得もできて、多くの方に祝福されました。帰国後のパレードにも参加できて今までとは違った世界を見ることができました。

〜2020年に東京で行われることについては、どう思われますか。〜

周囲の人たちからは会場に応援に行くよと言っていただいたり、メディアもオリンピックとパラリンピックをセットに取り扱ってくれたりして、国を挙げて大会を盛り上げていくムードは、選手としてとてもありがたいことです。競技へのモチベーションもあがります。自国開催なので、多くの人たちが応援してくれるのが、自分のパワーになりますし、すごく楽しみです。

〜「東京アスリート認定選手」に認定されて何か意識が変わったこと、周囲からの反応はありましたか。〜

人から注目されているなという想いが強まりました。自分で言うのはおこがましいですが、僕が「東京アスリート認定選手」に選ばれたことで、障害を持った人たちから、自分も陸上をやってみたいと思う人が出てくるかもしれません。あとは金銭的な支援もいただけたので、新しい義手を作ることも出来ました。身の引き締まる思いで「東京アスリート認定選手」の名前に恥じない競技生活を送らなければならないなと思いました。

そして東京都からも認定選手を広めるアプローチをしてもらい、認定選手として良い成績を残せるような選手にならなくてはいけないと思います。

〜東京アスリート認定選手から何か触発される人たちもいるかもしれません。〜

多川知希選手の写真3

障害者のなかには、いまだにパラリンピックのことを知らない人や、別の世界のことだと認識している人がいます。健常者のなかで生活している人ほど、パラリンピックに距離を置く人もいるようです。ですので、東京アスリート認定選手を知ることで、違った世界に挑戦してもらいたいと思います。僕ら障害者スポーツの世界も高いレベルで競い合っています。いま特にやりたいことがないなら、参加してもらって一緒に盛り上がってもらえれば嬉しいです。

〜競技と仕事の両立はどのように行っていますか。〜

就業時間に特別扱いがあるわけではなく、ほかの社員同様に夜遅くまで働くこともあります。でも、しっかり働いたうえで、競技でもいい成績を残すと、同僚はとても喜んでくれます。

僕の方から周囲に刺激を与えられるし、それこそ、あいつができるなら俺もできるなと思ってもらえたらいいです。新しいことを始めてみようと刺激を与えられる存在になれるかなと思います。

〜オフの時はどのように過ごしていますか。〜

オフの日は、1日何もせずゴロゴロしているといったことはほとんどありません。買い物が好きなので、都内の大型商業施設などに出かけます。新しい商品を見たりするのが好きですね。買うことは少ないですけど、見るだけでも楽しいなと思います。ファッションにも興味があるので洋服をチェックすることもあります。ただ、会社ではスーツなので、あまり着る機会がありません。あとはテレビを観たりしています。

〜どこかお気に入りの場所はありますか。〜

多川知希選手の写真4

家ですね(笑)一番落ち着く場所です。練習や仕事から帰ってきてから、テレビを観ながら、寝るまでリラックスした1〜2時間というのが、とても大事かなと思います。

僕は自宅の近くにある鍼治療院に通っており、試合の1〜2週間前にはコンディショニングを整えるために行っています。これが、ひとつの試合に向けてのルーティーンにもなっています。

〜最後に、新しいことを始めてみたい障害者の方に何かアドバイスはありますか。〜

とにかく、やってみることです。「僕は(私は)障害を持ってるから出来ない」ではなく、私がやっている陸上競技以外のスポーツもありますし、パラリンピック特有のスポーツだってありますので、まずはやってみるのがいいのではと思います。そして、自分で何ができないかを明確にすることが大事です。全部出来ないと言ってしまうと、一歩も進まないので、何か始めてみて、自分が出来ること、出来ないことを明確にしていけばいいと思います。ちょっとずつでも良いので、障害者スポーツにチャレンジしてほしいです!

インタビューでは、まずは行動に移すことが大事だと語り、自身で出来ること、出来ないことを客観的に分析しながら、自己研鑽を重ねてきた多川選手。二足のワラジで培ってきた経験こそが、多川選手の強みなのかもしれません。

東京のアスリートを応援しよう!